コンスタントフォース機構
個人的に、トゥールビヨンより好きな複雑機構としてコンスタントフォース機構があります。
ゼンマイのトルクは巻ききった時に一番強く、解けきる直前が一番弱くなります、この影響を受けて精度が変化します。
コンスタントフォースは何らかの方法でトルクを一定化することで精度を上げるアプローチです。
考え方自体はシンプルですが、実際に実現するのはかなり大変です。
フュゼ・チェーン、ルモントワールと呼ばれる方法があります。
フュゼ・チェーン
円錐状の滑車(フュゼ)にチェーンを巻いた変速機を使い、トルク変化を打ち消すように変速比を変化させる方法です。
マリンクロノメーター(船の位置を天体観測によって同定するための基準時計)に用いられていました。
また、懐中時計に搭載もされていたようです。
原理的には完全にトルク変化を打ち消すことができるうえに、変速でトルクと速度の比率を変えているだけなので、エネルギーは無駄になっていません。
チェーン+香箱とほぼ同径のフュゼが必要なので、小型化が難しいとされていましたが、最近は普通に腕時計に載っています。
A Lange & SoehneやBreguet、Zenithなどが搭載しています。
チェーンを可視化またはグラスバックから観察可能にしてあるものが多く、トゥールビヨンほど動きは無いですが、機構の凄味みたいなものが感じられます。
昔ながらの機構ですが、これを現代的にアレンジしたものとしてRomain GauthierのLogical Oneという作品があります。
香箱からの出力に変速機を組み合わせることでチェーンを1重にし、フュゼの代わりにスネイルカムを使ってチェーンを垂直にしてねじりの力がかからないようになっています。
また、巻き上げをプッシュボタンで行う機構や、チェーンをルビーで作るなどの新機軸を取り入れています。
プロモーション動画だと仕組みがわかりやすいです。
ルモントワール
フランス語で巻くという意味らしいです。
メインのゼンマイのトルクを一度別の所に貯え、その力を使って脱進機を動かすものです。
置時計などでは錘(+重力)によって均一な力を得ることもできますが、腕時計の場合は貯える先もゼンマイです。
IWCのコンスタントフォーストゥールビヨンの説明が一番わかりやすかったです。
ルモントワールが動作している時はキャリッジが1秒ステップでジャンプし、トルクが足りなくなってくると滑らかに動くそうです。
こちらはフュゼ・チェーンと違い、巻き上げる以外のトルクは捨てていることになります。
FP JourneやDeWitt、Christophe Claretなどが搭載しています。
また、フュゼを作っていたA Lange & Soehneもルモントワール型のコンスタントフォースとトルクの強いゼンマイを使い31日(744時間)のパワーリザーブを誇るランゲ31という怪物を作っています。
他に面白い使い方として、ルモントワール機構よりゼンマイ側の上流は巻き上げ以外は停止していることを利用してデジタル表示を実現している、Lange Zeitwerkや4Nといった作品もあります。