コンスタントフォース機構2

フュゼ・チェーンとルモントワールのほかにもコンスタントフォース機構に類するものがありました。
一部、私の理解が追いついていなくて本当にコンスタントフォースと呼んでいいのかわからないのもありますが。

コンスタント・エスケープメント

Girard Perregauxによって作られた機構で、付加機構というより脱進機そのものの構造変更です。
フュゼ・チェーンにしても、ルモントワールにしてもコンスタントフォースにする部分は脱進機までの輪列ですが、こちらはより進んで脱進機内で力を一定にすることを目指しています。
原理の説明はとりあえず公式の動画を見るのが一番わかりやすいかと。

スイスレバーとは構造が違い、ガンギ車とテンプの間にあるアンクルにシリコン製14um厚のスプリングが取り付けられています。
このスプリングが、動画でも出てくるカードをたわませた状態で力をかけるとある一点で一気に力が解放される現象(バックリング)によって力をバッファすることで力を一定にするという仕組みと理解しました。


テンプへの衝撃はバックリング現象でいったんチャージされた力が解放されているので一定で、スプリングへのチャージはガンギ車の形を見ていると衝撃というよりスロープ状で緩やかに行っているように見えます。
過剰なエネルギーはスプリングの振動かガンギ車の衝撃音で放出されているのではと思います。
機構が重そうですが、部品をニッケルで作ることで問題ない重量に抑えているようです。


原理的にはシリコンじゃなくてもできそうですが、スプリングの特性はシリコンの物性に頼っている部分が多いらしく、シリコンがあって初めてできた機構ということのようです。


問題があるとすれば、パッと見て分かるように大きい事です、ケース径が48mmあり、その半分弱がコンスタントエスケープメントのスプリングです。
また、コンスタントフォース化する前のトルクもある程度必要なようで、香箱は2層構造×2の4つが搭載されています。
パワーリザーブが7日間あるそうなので、そちらの都合かも知れません。


とても難産で、プロトタイプの発表は2008年ですが、去年(2014年)の三越WWFで実機を見せてもらったときにはまだ止まるということでした。
止まらなければスプリングがくねくねと動く動きは非常に面白く、見ていて飽きません。
2014年末ぐらいから、デリバリーは始まってはいるみたいです。

トルクリターンシステム

セイコークレドール叡智IIと叡智に搭載されています。
ゼンマイのトルクが大きい領域では一部のトルクをゼンマイに戻すこと(巻き上げる)ことで、トルクを有効活用するというものです。
主目的はパワーリザーブの延長のためのようですが、副次的にトルクの安定化作用もある…ということのようです。
CiNii 論文 -  トルク・リターン・システムの開発(研究)
CiNiiで論文が読めました。


パワーリザーブインジケータで制御されるクラッチが接続されている時は香箱が1回転すると0.2回転分巻き上げられる=実際の消費は0.8回転分で、切断されると巻き上げられなくなるので香箱1回転=実際の消費1回転分になるという仕組みです。
これにより、同じぜんまいで7時間(62-55)のパワーリザーブの向上があるということです。


トルクを戻していると考えるか、輪列全体で見れば変速比が変わっているとも考えられそうです。


論文のFig6にスプリングトルクの図がありますが、あまりコンスタントって感じはしません。
ただ、この論文の機械は組み合わせる脱進機が水晶で制御するスプリングドライブなのでトルク変動にはもともとロバストで、ブレーキで捨てていた過剰なトルクをパワーリザーブの延長につなげるのが主目的のように読めます。
機械式用には設定を変えればもっとフラットなトルクになるの…か?と思います。


機構的にはパワーリザーブインジケータ+αぐらいなので機械式にも載らないのかな?と思いますが、叡智のムーブメント専用のようです。

デッドビート

秒針がステップ運針するデッドビート機構も構造によって一秒ごとにトルク蓄積と開放を繰り返しているので、はコンスタントフォースに近いです。
Arnold & Sonの機械などは近いと思うのですが、資料が無くて不明です。